SALON DE THÉ LŪVOND

Think

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究極の嗜好品としての伝統的な紅茶も必要だけど、同時に大衆的な紅茶も必要。


聞くところによると、月明かりの下で採れた特別なお茶があると。

伊藤

セリンボン茶園などのことですね。バイオダイナミック農法という手法で栽培された紅茶なのですが、その手法では、ある決まった角度を満月が通過する日を狙って収穫をします。満月の日は素粒子がたくさん降っているのですが、素粒子をたくさん浴びた茶葉は通常の3倍くらいのスピードで伸びます。つまり、茶葉が大きく成長しようとしてエネルギーを最大限に溜めている瞬間を狙って摘むという方法です。素粒子をキャッチできるのは植物だけ。その生命力と恵みを分けていただくということですね。紅茶はもともと中国茶から派生したものですが、漢方と同じように身体の調子がよくない時に飲まれていたという歴史も持っています。

幼少期に「味覚が鍛えられるような環境があった」とおっしゃっていましたが、それはどのような環境だったのでしょうか。

伊藤

神戸の六甲山の麓で3世帯の大家族で暮らしていました。日々の生活で食べる野菜は家の裏にある山で採れた野菜で、庭先には山菜やクレソンも生えていました。父が漁業関係に強い繋がりがあったので、新鮮な旬の魚も毎日食卓に並んでいました。その他の食材に関しても、ソーセージなどの加工品は一切出てこなかったですし、スナック菓子も禁止されていました。でもそれは、ダメというより“食べなくてもいいもの”より“食べた方が良いもの”を優先していた、という感じです。そうやって「自然原理でできたものはこうである」ということや、新鮮で良質なものはどんな味がするのか、ということを舌や脳に記憶していったのだと思います。さまざまな種類のお茶にもその中で自然と触れていました。

幼い頃から古き良きものやシンプルで質の良いものに触れて、紅茶の世界でも伝統的なスタイルをベースにされていますが、一方で伊藤さんは、紅茶とソーダをあわせた「ティーソーダ」や、ロイヤルミルクティーの中にオレンジを入れたものなど、真逆とも思えるメニューも開発されていますよね。それがとても興味深く思えたのですが・・・

伊藤

それはある種の反発、反動かもしれませんね。幼少期は炭酸飲料は禁止されていて、コーラは「飲んだら骨が溶けてサッカーができなくなるぞ」って言われていたんですが、だったら健康に悪くないソーダを自分で作ってしまおう、という(笑)。

表参道店のリニューアルに合わせて新しく作ったSALON DE THÉ LÙVONDのロゴのイメージにも通じることなのですが、僕は何事においても両極端なものが同居していることが面白い、と思ってしまう傾向にあるようです。結構本気でやっていたサッカーも、ずっとボランチという位置でオフェンスとディフェンスの両方を見てきました。相反するものを同時に見て、感じて、そこから自分の必勝法を生み出す。それが染み付いているのかもしれません。究極の嗜好品としての伝統的な紅茶も必要だけど、同時に大衆的な紅茶も必要。“大衆”があることによって“究極”も守られますからね。

お店で使われているティーカップもまた、そのひとつかもしれませんね。現代的なインテリアや空間の中にヘレンドやマイセンのティーカップが差し出されるそのバランスは、体験してみるととても新鮮に感じました。

伊藤

ヘレンドもマイセンもやはり本物。でも、そういう“絶えない文化”は肌で感じて実感しないと意味がないというか・・・本質が見えてこないと思っています。だから、一脚数十万円するものでも、臆することなく使っていきたいです。お客様がそれに喜んでいただける瞬間、空気感は何ものにも代え難いですからね。

表参道店をリニューアルされて、お店のロゴも新しくされました。このお店を拠点として、これからSALON DE THÉ LÙVONDというブランドをどんなふうに成長させていこうと思われていますか。

伊藤

ブランドもお店も様式は少しツンとしていて、空間に緊張感はあっていいと思っているのですが、実際に触れてみたらそうではなかった・・・ということにしたいですね。揃えている茶葉には絶対的な自信があるので“スーパー玄人”と言えるような方がいらっしゃっても楽しんでいただけるのはもちろんのこと、“スーパー素人”の方がいらっしゃっても十分楽しめる場所にしたいです。紅茶に対する知識なんて持っていなくて大丈夫。これが美味しい、これが好き。僕がそうであるように、お客様もただそれだけを持って気軽に来ていただければと思っています。

Interviewed by Asato Sakamoto

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